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レポートの実例

経済展望レポート(2016年4月29日号)

昨年の11月15日のレポートでは、「安倍首相が消費増税を再延期し、衆参ダブル選挙に打って出る可能性が高い」という見通しを述べました。ところが、熊本での連続地震の被害を受けて、衆参ダブル選挙はなくなりましたので、その見通しを修正する必要が出てきています。そこで今回のレポートでは、その見通しの修正も含めて、非常に読みにくくなった政局や冷静な金融市場への対応について述べたいと思います。

多くのメディアでも報道されていますように、安倍首相は熊本の地震への対応を優先しなければならないため、衆参ダブル選挙を見送るという決断をしたようです。これは、至極当然の判断であります。仮に政局を重視して衆参ダブル選挙を行うような判断をすれば、熊本の被災者だけではなく国民全体の反感を買うのは、火を見るより明らかであるからです。

もちろん、安倍首相は衆議院の解散をあきらめたわけではありません。今年の秋以降のどこかで消費増税の再延期を表明し、衆議院の解散に打って出るという考えを持ち続けているのは間違いありません。しかし、そのシナリオを覆す可能性として懸念されるのが、株価の下落によって政権の求心力が弱まるばかりか、国民のあいだに年金不信が高まってしまうということです。

安倍首相のあたまのなかには、「消えた年金問題」によって2007年の参議院選挙で敗北した苦い経験を何としても繰り返したくないという思いが強くあるようです。これから株価がさらに下がることによって、年金の損失額がクローズアップされるようになってくるという事態は、自らのシナリオ通りに事を運ぶためには、何としても避けたいところでしょう。

ですから、安倍首相は株価をできるだけ昨年夏場の水準に戻したいと考えています。厚労省やGPIFに政治的な圧力をかけ、2015年度のGPIFの運用結果の公表を参議院選挙の後にすることには成功しましたが、運用結果が公表されれば国民の批判を浴びることが避けられないでしょうし、株価の低迷が続けば国民の批判がさらに高まり、後々、衆議院の解散に踏み切ることができなくなってしまうからです。

しかしながら、年初からの円高基調が反転しない限りは、消費増税を延期しただけでは株価はなかなか思うようには戻らないでしょう。公的資金の買い余力が減少している現状では、3月のような官制相場(円高が進んでも株価が下がらなかった相場)を継続することも難しいでしょう。もはや消費増税の延期は株価上昇の材料としての価値が失われ、衆議院解散のカードとしての意味合いしか残っていないように思われます。

だからこそ、安倍政権はさらに円高が進まないようにするために、日銀の追加緩和に期待するだけではなく、為替介入という手段はどうしても残しておきたいと考えています。そのような事情から、米国が日本に為替介入しないように釘を刺しているにもかかわらず、麻生財務相は株価を支えるために為替介入を排除しない姿勢を鮮明にしているというわけです。

ただし、安倍首相と麻生財務相・財務省のあいだでは、為替介入に関する思惑はかなり異なっています。安倍首相は為替介入によって株価の下支えしたうえで、消費増税の延期を大義名分として衆議院解散に打って出たいと考えているのに対して、麻生財務相・財務省はたとえ米国の意に反することになっても、為替介入(口先介入も含む)を手段として持ち続けることによって株価を支援し、安倍首相に対して消費増税を予定通りに実施させたいと考えているのです。

政府・日銀が最後に為替介入したのは2011年11月のことですが、その当時は戦後最高値となる1ドル=75円32銭を付けており、購買力平価から判断しても過剰な円高の状況にありました。政府が為替介入を行うのに、米国の了解を事前に得る必要など、まったくなかったのです。ところが、現時点の107円~108円は当時よりも30円超も円安に振れており、購買力平価から見ても依然として円安の水準にあります。そのせいか、実際に為替介入できるかどうかはかなり疑わしいという見方があるのです。

米国にも円安を簡単には容認できない事情があります。年初まで続いたドル高により、企業業績の悪化が止まらず、主要企業の業績は2015年7-9月期から3四半期連続で減益になる見通しですし、すでにそれが経済成長率に悪い影響を及ぼし始めているのです。さらには、大統領の予備選においても、共和党のトランプ・民主党のクリントンの両候補がともに、中国や日本を為替操作国と批判しており、米政府もドル高に神経を尖らせなければならない状況にあるというわけです。

そのうえ、世界各国もドル高を望んでいません。ドル高が人民元安に代表される新興国の通貨安を誘発すれば、新興国からの資本流出が加速し、金融市場の混乱が再燃しかねないからです。それとは反対に、ドル安は新興国のドル建て債務を軽減するばかりか、新興国からの資本の流出を抑え、ドルと逆相関関係にある原油などの資源価格の上昇や、米企業の輸出増への寄与といった好影響が期待できるのです。

また、常識的な考え方をすれば、FOMCは少なくとも6月までは利上げをすることができないという結論に至ります。英国のEU離脱の是非を問う国民投票が6月23日に実施されるので、その投票でEU残留派が勝利するのを確認できない限り、FOMCが利上げを決断できるわけがないからです。ただでさえ、28日に発表された1-3月期のGDP(速報値)は0.5%増に減速し、その内訳では設備投資と輸出が2期連続で減り、個人消費も勢いが鈍ってきているのです。そのことも考えると、9月まで利上げができないという可能性も高まってきているのかもしれません。

米財務省が半年に1度議会に提出する「外国為替報告書」が近く公表される予定ですが、この報告書ではこれまでも日本の通貨政策がたびたび批判されてきた経緯があり、その内容次第では円高がいっそう進む可能性を意識しなければなりません。おまけに、英国の国民投票における世論調査では、残留派と離脱派が拮抗しており、仮に残留派が勝利したとしても、それまではポンドを売って円を買う動きが強まりやすいのです。残留派が勝利しない限り、円高加速への不透明感は晴れないといえるでしょう。

そのような状況下において、海外通信社が「日銀が金融機関への貸し出しにマイナス金利の適用を検討している」と報じたので、日銀が追加緩和に踏み切るという見方が急速に広がりました。これまで円を買っていた海外の投機筋はいっせいに円売りに動いたため、わずか1日で109円台から111円台後半まで2円超の円安が進んだのです。それと同時に、海外の投機筋は勢いよく日本株を買い上げるという賭けに出ていました。日経平均株価が17500円を超えた原動力は、4月第3週の海外投資家の買い越し額(5320億円)からもわかるように、紛れもなく海外の短期筋の買いであったのです。

昨年12月のECBの追加緩和以降、私たちは海外の短期筋の逃げ足が速いという事実を何回も見てきています。それを踏まえたうえで、あれだけ多くの市場関係者が日銀の追加緩和を予想していたのですから、その予想が外れたときの反動も大きいというのは、最初からわかっていたことであるといえるでしょう。日銀が金融政策の現状維持を決定してから、わずか6時間で3円も円高への巻き戻しが進んでしまったというのは致し方のないことでしょう。(1日あまりたったロンドン市場では、円高進行の幅が4円へと拡大しています。)

週明けの日経平均株価は、16000円に接近する展開になるでしょう。だからといって、何も慌てる必要はありません。3月6日のミニレポートでは、日経平均株価は下降トレンドからボックストレンドに転換したという見解をお伝えし、3月11日のレポートでは、ボックストレンドでの売買方法を詳しく説明しましたが、今の状況でも同じような対応が有効であると考えております。

依然として、日経平均株価は上値17905円、下値14865円の3000円幅のボックス圏相場で推移しているといえるでしょう。すなわち、14865円に近付く過程で買い下がり、17905円に近付く過程で売り上がればいいのです。日経平均株価に連動するETF等で、このような売買を機械的に繰り返すだけでいいというわけです。これは、もっと簡略化すれば、15000円割れは数回に分けて買い、16000円台は買いも売りも見送り、17000円超えは数回に分けて売るという形に置き換えることができるでしょう。

最後にもう一回だけ、3月11日のレポートで述べた要点を以下に列記します。2016年~2017年の株式投資戦略を考えるにあたり、決して忘れないでいただけたらと思っております。

(1)大まかな予想では、ボックス圏相場から下降相場へ移行することを意識する
(2)ボックス圏相場が続くかぎりは、機械的な売買に徹するほうが無難である
(3)下降相場への転換点を見極めるのが重要になる
(4)上昇相場の時のように、大胆な売買は手控えたほうが無難である

次回のレポートでは、今後の経済の大きな流れ(おおよそ3年間くらい)の見通しを述べたいと思います。3月11日のレポートと同じくらい、非常に重要なレポートになることは間違いないでしょう。併せて、EUやユーロ圏がこのまま持続可能なのかどうか、私が現地を調査し、肌で感じ取ったことも述べるつもりです。

経済展望レポート(2015年12月29日号)

2015年も終わりに近づいてやっと、米国の利上げという最大のイベントが終わりました。その結果として、実体経済への悪影響が出てくるのはこれからでしょうし、今のところ落ち着いている金融市場も2016年は荒れるのではないかと予想しております。そこで今回のレポートでは、以下の2つの点について述べていきたいと思います。

(1)2016年の株式相場が荒れると予想する件について
(2)2016年の海外投資家の動向について

はじめに、(1)の「2016年の株式相場が荒れると予想する件について」ですが、これからも日本の株式市場は短期筋の動きに一喜一憂、右往左往を続けるのではないかと考えております。11月15日のレポートで述べましたように、日経平均株価が20000円に接近する水準では、海外投資家が本格的に腰の据わった買いを入れるのは難しくなっているからです。そのような状況下で、相対的に売買に占める短期筋の割合が増えることによって、株式市場が短期筋の動向によって振り回される度合いが以前にも増して高まっているのです。

ヘッジファンドを中心とした短期筋の本音は、経済メディアにおいて「持たざるリスク」や「中国の目先の指標改善」を囃し立てて、ある程度のパフォーマンスを達成したら年末までには逃げたいというものでした。そのため11月30日のレポートでは、「当面の好材料はECBの追加緩和で打ち止めになるとして対処したいところ」と述べましたが、案の定、短期筋はECBの追加緩和をきっかけに売りの姿勢に転じてきました。さらには、遅れを取った短期筋にとって、日銀により緩和の補完策が発表された直後の株価急騰局面は、絶好の売り場が再来したと映ったことでしょう。

過去数年間、日本株を大幅に買い越してきた海外投資家のうち、長期投資家の代表であるオイルマネーは8月~9月に日本株を大量に売り払いました。その証拠として、産油国の政府系ファンドとされる大株主の名前が、数々の日本を代表する企業の上位株主から姿を消しています。中東産油国の投資家は欧州経由で売買をすることが多く、世界の株式市場が8月下旬以降に大荒れとなった背景には、オイルマネーの売りが大きな要因のひとつであったのは間違いありません。実際に日本の株式市場でも、海外投資家は9月に現物株を2兆5772億円売り越しましたが、そのうち欧州の投資家の売り越し額は1兆8009億円と過去最大の規模に達していたのです。

私は長期投資家であるオイルマネーが戻ってこない限り、日経平均株価が20000円を超えて上昇するのは難しいと見ております。オイルマネーは世界の運用資産の1割程度を占めるほどの規模に達し、今年の夏までの日本も含めた先進国の株式市場の上昇を支えてきました。ところが、原油価格の低迷が長期化し、産油国の財政を圧迫し始めている中で、再びオイルマネーが株式市場にすぐに戻ってくるとは考えにくいのではないでしょうか。米国が2016年にも原油の輸出を開始するだけでなく、イラン産原油の輸出増が供給過剰に拍車をかけていくので、中東産油国は原油価格が30ドルを割り込むところまで覚悟しているのです。

海外投資家は日本株を8月に1兆1582億円、9月に2兆5772億円と4カ月連続で売り越しましたが、10月には4630億円、11月には6776億円と2カ月連続で買い越しに転じています。しかし多くの市場関係者が指摘しているように、10月以降の買い越しはヘッジファンドなどの短期筋によるものが大きかったといえます。オイルマネーに代表される長期投資家が減少した代わりに短期筋の投資家が増えたのですから、これからは短期的に株価の振れ幅が大きくなり、その大きい振れが1年に何回も繰り返される可能性が高まってきているわけです。

そのうえに、株価指数先物の商いが膨らんできていることにも注意が必要です。株価指数先物の2015年の売買代金は過去最高の1400兆円弱になる見通しであり、東証1部の売買代金の見通し630兆円弱と比べると、相場全体に与える影響が確実に高まってきています。8月~9月の株価下落時や12月の下降相場時には、先物の売買代金が膨らんでいましたが、とりわけ日銀が緩和の補完策を公表した当日の先物売買は異常に膨らんだということです。日経平均先物の売買シェアでは依然として、短期筋を中心とする海外投資家が7割超を占めています。

以上のように、2016年が2015年以上に短期筋に振り回される相場展開になると予想するのは、投機性が強い構造に変化しつつある相場環境ではやむを得ないことであると考えております。

続いて、(2)の「2016年の海外投資家の動向について」ですが、長期的に腰の据わった資金を扱っている投資家ほど、世界の株式市場の先行きを慎重に見ている向きが多いようです。7月28日のレポートでは、ウォール街の早耳筋の銀行投資家たちがすでに米国株の上昇は望めないと考えていたことを取り上げましたが、8月のチャイナ・ショック以降は米国株だけでなく、日本株や欧州株の上昇余地も乏しいと考える欧米投資家が増えてきているのです。すなわち、長期的な視点に立つ投資家ほど、中国リスクがいつ蒸し返されるのかを警戒しているわけです。

さらに欧米の経済メディアでは、10月頃からアベノミクスは失敗したと見始めているところが増えてきています。当然のことながら、3年近く経っても経済の好循環は実現していないですし、大企業の高収益ばかりが際立ち、消費が一向に増えてきていないという事実を客観的に評価しているからです。安倍政権が経団連に対して、2015年度以上の賃上げと設備投資額にノルマを課そうとしているのを見て、欧米メディアには安倍政権が自らの経済失政を認めているのと変わらないと映ったのではないでしょうか。そのように考えると、欧米投資家にとって2016年に日本株が力強く上昇する投資アイデアは、今のところ存在しないように思われます。

欧米の投資家にとって2015年当初からの前向きな投資アイデアは、ECBの量的緩和と日銀の追加緩和だけでなく、GPIFによる買い需要、成長戦略でのROE重視、円安による企業収益拡大など、いくつものアイデアがありました。実際にECBが3月に量的緩和を開始した後に、世界の株式市場は勢いよく上昇し、とりわけ日本株の上昇率が頭ひとつ抜け出ていました。8月のチャイナ・ショックによって世界の株価は大幅な下落を強いられたものの、10月に始まったECBの追加緩和観測(12月に追加緩和を決定)が新しい投資アイデアとなり、再び日米欧の株価をある程度のところまで押し上げました。

ところが、ECBの3月の量的緩和と10月に始まった追加緩和観測で明らかに異なるのは、3月の量的緩和開始後では長期および短期の双方の投資家が株式の買い増しを進めていたのに対して、10月以降の追加緩和観測では短期の投資家しか積極的に株式を買い進まなかったということです。もともとECBの追加緩和は2016年の投資アイデアとして想定されていたものですが、それが2015年中に消化された挙句、長期の投資家の資金があまり戻ってきていないという事態を考えると、たとえ2016年に日銀の追加緩和観測が台頭し、実際に追加緩和が実施されたとしても、10月以降の日本の株式市場と同じく短期筋の資金しか入ってこない可能性が考えられるわけです。

先日、日銀が補完策を発表した直後の株価の動きは、まさにそれを暗示しているように思われます。長期的な投資家が日銀の補完策に見向きもしなかったばかりか、短期筋に利食いや売り仕掛けの材料を与えただけにすぎなかったからです。2016年に日銀が追加緩和を決定したとしても、追加緩和の観測が台頭することで短期筋が1カ月程度の期間を通して買い上がり、追加緩和の決定で売ってくるというシナリオを意識せざるをえないのです。

私が海外投資家の中でも今後の動向に注目しているのは、ブラックロックの日本株投資の方針が変更になるか否かです。オイルマネーとともに日経平均株価が20000円を超える原動力となったのは、紛れもなくブラックロックの積極的な日本株買いにあったからです。ブラックロックの手掛ける資産規模は世界全体で600兆円に迫り、世界で圧倒的な首位を誇っています。そのブラックロックは2014年以降、日本株投資を急激に拡大させ、今やGPIFや日銀に次ぎ、日本企業の第3位の株主になっていると見られています。海外の大口投資家かつ長期的な投資家として、唯一残っている存在であるのです。

ブラックロックの見通しでは、日本企業の賃金や設備投資は改善し、日本経済は拡大していくということですが、現実的にはすでに大きなズレが生じていると考えられます。ブラックロックが日本株を売り出したら、需給が大きく崩れる可能性があり、同社の売買動向にも注意を払っていく必要がありそうです。推計ではありますが、2014年度と2015年度上半期の期間で見ると、海外投資家の日本株買い越し額の優に半分以上はブラックロックが担っていたというから、実に驚くべきことです。

2015年は海外投資家が日本株を7年ぶりに売り越す見通し(12月第3週までの累計で2308億円の売り越し)にある中で、今の日本株を買い支えているのは、事業法人(同累計で、2兆9723億円の買い越し)の自社株買いと、信託銀行(同累計で、1兆6483億円の買い越し)を通した年金基金の買いです。年金基金の買い需要が急速に縮小している状況下では、ブラックロックが売りに転じるインパクトは相当に大きいと考えなければならないでしょう。

最後に、ひとつだけ余談です。12月に発売されるマネー誌(株式情報誌)には必ず多くの専門家による来年の株価予想が掲載されています。私も11月にこの予想に答えるのが毎年恒例の仕事になっているのですが、本当のところ高値と安値が想像できないのはもちろん、高値と安値が何月に付けるかなど予想できるはずがありません。世界の経済がどの程度まで減速するのか、原油価格がどこまで下落するのか、日銀やECBの追加緩和が本当に行われるのか、中東情勢がどこまで落ち着くのか、欧州の政治機能がどこまで後退するのかなど、株価に影響する様々な情勢を的確に予測することは、絶対に不可能だからです。そういった意味では、2016年の株価予想などは必要がない情報であるといえるでしょう。

ところが私は、混沌とした世界の情勢を正確に予想するのは不可能であったとしても、その流れを変えうるポイントや兆候を読み取ることは十分に可能であると考えております。来年のレポートでも、そういった視点をできるだけお伝えできればと思っている次第です。

それでは、みなさま、すばらしい年末年始をお過ごしください。

経済展望レポート(2015年12月15日号)

いよいよ12月15日~16日のFOMCにおいて、9年ぶりの利上げが決定される見通しにあります。金融市場では利上げは織り込み済みだという意見が大勢ですが、果たして本当にそうなのでしょうか。少なくとも実体経済が利上げを織り込んでいくのはこれからですし、その織り込んでいく過程で金融市場に悪影響を与えていくだろうと考えるのが妥当なように思われます。今回のレポートでは、米国の利上げが金融市場に与える影響も含めて、以下の2つの点について述べていきたいと思います。

(1)米国の利上げが金融市場に与える影響について
(2)私の実際の外貨投資と今後の円相場の見通しについて 

まずは、(1)の「米国の利上げが金融市場に与える影響について」ですが、少なくとも先週の前半までは、市場関係者の多くが「織り込み済みで、大した影響はない」という見解を持っていました。ところがこの1週間足らずで、米国をはじめ先進国の株価が大きく値下がりをすると、これまでの見解に懐疑的になる関係者が次第に増えてきているように思われます。

私の現時点の見立てでは、株式市場や為替市場は米国の利上げを「ある程度」は織り込みに行っているように感じられます。なぜ「ある程度」なのかというと、短期的には市場がほぼ織り込んだとしても、中期的には米国経済や世界経済の減速をまだ織り込んでいるとはいえないからです。おそらく、イエレンFRB議長も利上げによって米国経済が幾分減速することは覚悟の上であるのでしょう。

今の米国経済は自動車の売り上げが突出していて、GDPが堅調に推移している割には、他の耐久消費財はそれほど売り上げが伸びていません。先日始まったクリスマス商戦においても、消費が拡大基調にある割には、小売りの現場では思ったほど売り上げが伸びていないという話が聞かれます。これまでこのレポートでも指摘してきましたように、駆け込み消費がすでにピークアウトした可能性が高く、その反動が2016年には顕著になってくるだろうと考えられます。

ところが、FRBの経済の先行きの判断には、駆け込み消費という概念がまったく存在していないばかりか、米国の消費がすでにピークアウトしたという意見もまったく聞かれません。FOMCメンバーの中で慎重派であるイエレン議長ですら、駆け込み消費の反動に対する懸念を表明したことは一度もないのです。それよりも意識されているのは、さらなるドル高が米国企業の収益を悪化させるということや、新興国への投資マネーが流出して世界経済を下振れさせるということです。

とはいえ、イエレン議長は9年ぶりの利上げが米国経済を幾分減速させるリスクを意識しているので、FOMC後の記者会見において、実体経済や金融市場への悪影響を和らげるために、利上げが非常に緩慢なペースになるということをアナウンスすることになるでしょう。そして、そういったアナウンスによって、金融市場の動揺は抑え込むことができるのかもしれません。

ただし、それは金融市場の短期的な動揺を収めたにすぎず、米国経済ひいては世界経済の中期的な減速を織り込んでいるとはいえないでしょう。金融市場が経済の減速を織り込んでいくには、各国の経済指標の結果を待つ必要があるので、今のような金融市場の動揺は2016年の1月~3月にも起こると考えていたほうが無難ではないでしょうか。私たちは短期筋の右往左往に振り回されないように、自らの軸となる考えを持って対応していかなければならないのです。

次に、(2)の「私の実際の外貨投資と今後の円相場の見通しについて」ですが、私がドルに集中投資を始めたのは2012年12月のことになります。4年くらい前から拙書をご覧になっている方はご存知のことと思いますが、私の当時の考えは「FRBのQE3開始によって、円高トレンドが終わりに近づいていく」というものでした。そのような状況下で、衆議院選挙の公約として、自民党、日本維新の会、みんなの党など主要な政党が日銀に対して大規模な金融緩和を求めているのを見て、2013年は円安トレンドへの転換が始まると実感したのです。

私はこれまでドル買いをした経験は一回もなかったのですが、この時は一切の迷いがなく、複数の銀行口座でドルを数回に分けて買うことができました。その後、安倍政権が誕生し、日銀が大規模な金融緩和を行うことによって本格的な円安トレンドがスタートしたわけですが、当時の私はターゲット・プライス(目標値)というものを考えることはありませんでした。「できるだけ長く、このトレンドに乗っていこう」と思っていたのと同時に、「トレンドの転換点はどういったタイミングでやってくるのか」ということだけを論理的に考えていこうとしていたのです。

そして、2014年10月に日銀が追加緩和をした後のドル円相場の推移を見ながら、米国の利上げが円安トレンド転換のタイミングになるだろうと考えるようになりました。そのように考える根拠については、『これから日本で起こること』(2015年1月刊行)や『中原圭介の経済はこう動く-2016年版』(2015年10月刊行)、このレポートなどでも述べてきたので割愛いたしますが、FRBの政策を実質的に決定しているニューヨーク連銀のダドリー総裁が利上げを支持するという発言を受けて、私は12月のFOMC前にドルをすべて123円台で売却することができました。

もちろん、この売却が本当に成功だったのかは、あと数か月のドル円相場の動向を見てみないとわかりませんが、それまでに少なくとも3回はシティバンク(現SMBC信託銀行)の助言が雑音として入ってきました。私の記憶が正しければ、100円に達しようとする局面と110円台に乗せた局面で、「当行の予想では、今後は円高に振れます」といった助言を受け、ドルを売却するように勧められました。そして、先々週にドルを売却しようとした時には、「当行の予想では、今後も円安が進みますが、本当に売却されるのですか」と2回も聞かれました。

そこで思ったのは、自分の軸となる考えを持っていて、なおかつその考えに自信を持っていない限りは、ほとんどの人が銀行の助言に従ってしまうのではないかということです。確かに、結果的に自分の考えより銀行の予想のほうが正しいというケースもあるかもしれません。シティバンク(現SMBC信託銀行)の場合は、たまたま3回すべての予想が外れたのかもしれません。しかしそうはいっても、シティバンク(現SMBC信託銀行)の予想は、どのケースでも論理的な裏付けに乏しく、腑に落ちない曖昧な予想にすぎなかったのです。

そういった意味でも、私たちは物事の本質や過去の歴史に照らし合わせながら、非常に難しい政治経済の予測を試み、予測が当たらなかった時は反省点を検証するといった試行錯誤を繰り返していく必要があります。また、移り変わりが激しい今の世の中で、何が有用な情報であり、何が役に立たない情報であるのか、常日頃から検証していく姿勢も求められています。私はこれまでの経験により、実体経済の予測よりも金融市場の予測のほうが、非常に難しいと感じております。さらには、金融市場の予測の中でも、為替市場より株式市場の予測のほうが、ずっと困難であると悟っております。

話は本筋から少し脱線しましたが(それでも大切な話をしたつもりです)、仮に私の見通し通りに円安トレンドが終わった場合、どのくらいの水準まで円高が進むと考えるのが妥当といえるのでしょうか。これも繰り返しになってくどいようですが、私は購買力平価(消費者物価ベース)の100円~105円あたりがひとつの目安になるのではないかと考えています。(企業物価ベースで見ると、購買力平価は95円~100円となり、さらに円高方向に振れる目安になってしまいます。)

ただし、ここで意識しなければならないのは、仮に円相場が120円を割り込み、110円を目指すような展開になったとしたら、日銀の追加緩和が行われる可能性が徐々に高まっていくだろうということです。日銀は2015年10月に株式市場が期待していた追加緩和を行いませんでしたが、それは株式市場の期待だけでは追加緩和が行われることはないという証左であります。これまでの安倍首相と黒田総裁の関係性を見ていると、日銀(黒田総裁)が追加緩和を行う強い動機は、今後は安倍政権の要請以外には考えられないのです。

ですから、円安から円高へとトレンド転換した相場がさしたる大きな抵抗もなく、ずるずると100円~105円のレンジに近づいていくというのは、予想することができないわけです。安倍首相と黒田総裁の間では、「2016年の国政選挙までは追加緩和を行わない」という密約がおそらくはあるものの、円高が予想以上に進む過程では株価も大幅に下落していくので、株高が生命線である安倍政権が急きょ態度を変え、追加緩和を催促するという可能性が高まっていくと考えるのが自然でしょう。

おそらくは、円相場が110円を割り込むあたりには、株式市場でも追加緩和への期待が相当に高まっていくだけでなく、安倍首相の発言にも変化が見られ始め、実 際に追加緩和が決定されることになるのではないでしょうか。そして、当然のことながら、日銀は現在の緩和策でも2017年には市場から国債が買えなくなってし まうので、さらなる追加緩和ではETFやREITの購入増額以外にも、新しい金融商品を買わなければならない決断を迫られることになるでしょう。

そのように考えると、2016年は安倍首相や黒田総裁の発言の変遷を見ながら、ドルの買い場を一回は探っても良さそうです。追加緩和の内容にもよりますが、最大で10円幅くらいは取れる可能性があるかもしれません。ただし、ドル投資の黄金の3年間はすでに終わってしまったと認識するべきでしょうし、だからといって、新興国通貨に手を出すのも拙速すぎると考えて外貨投資に向き合っていく必要があるでしょう。


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